2016歌壇賞応募作品「インソムニア」

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連作30首

愛されて育ったことはねむれなくない理由にはならないよママ

失恋が理由だったらそのほうがよっぽど平和寝とけば治る

愛せるというなら愛せ 知らないでいるというなら耳を貫け

きみはきみらしくと言ったあの人のあの人らしい笑顔は引き金

錠剤の微小体積寄りかかりからだとこころ預ける斥力

健忘はさあ健やかに忘れろと取りあげられたおもちゃのようだ

猫はいい いつかことばを失くしても乾いたゆびで撫でてやれるよ

思いだせぬこと自分を操れぬこと辞書で引けぬことばのあること

ゆーうつ、とくちを尖らせたまま言うきみのとなりで憂鬱、と言う

トーストのバターが溶けてから泣いた染みこむために生まれたいのち

ぼくだけが知らないうちにこの町が濡れたよぼくの知ってる町が

モビールのゆうらり泳ぐ魚たちすらも欠ければ困るそれぞれ

天空に見せつけあくびする食べてやろうぼくにはない色ぜんぶ

水だって多様性を持っている 肌だけじゃない(ぼくも水色)

二時間・二時間・三時間・二時間 眠りもあいでんてぃてぃを持つこと

ねむれない夜に見上げる星空の北極星はいつも見えない

夜の海ただようくらげ憧れたいつかの少女おろかな祈り

いっしょだねついた灯りも冴えた目もずっと眠れぬセブン・イレブン

生きるのは面倒だから生きるのに必要のないうたばかり書く

弟のよこがお短歌を読んでいるそれがわたしの道しるべだよ

昨日までぼくになかった言の葉のリフレインだけで泣いてしまった

スピッツのライブに行った夢を見て夢のなかでもうたは歌えた

泣き出したのは秒針だぼくじゃないぼくを囲んだ時の涙だ

生きるって何なんだろう解答を知るまで生きてみていいですか

突然に歌ってもいい? きみだけに聴いててほしいうたがあるんだ

アルペジオひとつひとつに意味のあるように紡いだ だ・い・じょ・う・ぶ・だ・よ

醒めないでどうかいまは醒めないでアコースティックギターと歌う

真剣に死にたい人に失礼で生きたくないと言いかえ歌う

ふときみはわかっていますと言ったんだそれだけでずっと救われたんだ

忘れませんように。どうか忘れないように眠るよおやすみなさい

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